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ジプシーの音楽と言えば、スペインのフラメンコ・ギター、東欧のジプシー・バイオリンが、まず思いつきます。民族としてのジプシーは、同じ血と感性があるのでしょうか、ジプシージャズ、つまり、ジャンゴが有名にしたホット・クラブ・スタイルを模倣したストリング・ジャズは、そういったジプシー由来の部分が、そのサウンドから感じ取れます。ホットクラブ・スタイルとは、ジャンゴとステファン・グラッペリのバンド「フランス・ホットクラブ五重奏団(Quintette du Hot Club de France)」が始めた演奏スタイルです。全てアコースティックで、リードギター×1、リズムギター×1〜2、コントラバス、バイオリンという編成で、主に2拍子でジャズ的な演奏をします。使われるギターは、セルマー・マカフェリ・スタイルの鉄弦のものがほとんどです。ほとんどの場合、ギター、あるいはバイオリンのテーマから始まり、アドリブを数コーラスずつ取ります。
ホットクラブ・スタイルでのバイオリンは、1920年代ニューヨークのジョー・ベヌーティをお手本とした、スイング・スタイルですが、これにヨーロッパ的、またはジプシー的旋律が加わった独特のサウンドが特徴です。それよりも、ホットクラブ・スタイルの核は、なんと言ってもギターの演奏スタイルでしょう。フラットピックを用いた奏法は、現在のジャズ・ギターと変わりありませんが、1920年代ジャズの管楽器の旋律とジプシー由来の独特な旋律がマージし、アポヤンド並の強いピッキングとブルース並の抑揚のあるビブラートが、強烈な個性を発揮します。この奏法を有名にしたのが、まさにジャンゴ・ラインハルトであり、ホットクラブ・スタイル=ジャンゴのギター、という図式が成り立ちます。
1930年代当時の本場米国のジャズは、管楽器のアンサンブルがバンドの中核を成していましたが、フランス・ホットクラブ五重奏団は、そのアンサンブルを純粋に弦楽器に置き換えて演奏することを、初めの一歩としました。ジャンゴは、トランペットやクラリネット、ホーンセクションのごとく、ギターを変幻自在に操ったのです。